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不得意と困ってしまうの違い – 『貧困と脳』の逆読みテストから考える

書籍レビュー
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「ずあたする おおんざさ」

これを逆から読んでみてください。

いかがですか?

実はこれ、
脳のワーキングメモリー
(短期記憶)
をチェックするテストなんです。

本来のテストでは、
この文字列を一度覚えて、
目を閉じてから
逆に読むというもの。

ここで読者の皆さんにも
挑戦してもらいたいと
思います。

一度上の文字列をよく見て、
できたら目を閉じて
さらに逆から読んでみてください。

…どうでしたか?

私の場合、
ぱっと見ただけでは
全然読めません。

でも1文字ずつ指で差しながら
声に出して読めば、
なんとか読むことは
可能なんです。

そして何より大切なのは、
「これは読めない」
という判断ができること。

さらに
「どうやったら読めるかな?」
と対処法を考えることができる。

つまりこれは
私の”不得意”なこと
の一つではあるけれど、
工夫次第で何とかなる。

必要なら誰かに助けを求めたり、
別の方法を考えたりすること
もできます。

言い換えれば、
私は「不得意」ではあっても
「困って」はいないんです。

“不得意”と”困ってしまう”の決定的な違い

『貧困と脳』
という本の中に出てくるこのテスト。

実はこれ、
とても重要なことを
教えてくれます。

不自由な脳を持つ方々の中には、
こういうことに直面した瞬間に、
より深刻な形で困ってしまう人が
いるそうです。

それは単なる不得意
とは次元が違う、
対処の方法すら見つけられない
困難さ。

「助けて」
と言えることすら難しく、
別の方法を
考えることもできない。

この本の素晴らしいところは、
なぜ逆読みテストができないのか、
なぜできるようになるための
努力ができないのか、

さらには、
なぜ「できない」ということを
他の人に伝えて
助けを求めることができないのか、
その理由を丁寧に
解き明かしてくれるところです。

この逆読みテストは
一つの例えに過ぎません。

本書では、私たちが日常で感じる様々な
「なぜ?」に対して、
丁寧な答えを
示してくれています。

そして当事者の周りにいる人々が
できない人に対して
どんな仕打ちをしてきたのか―
「できるはずなのに」
「努力が足りない」
「昨日はできたのに」
といった言葉で、
本人の苦しみを
さらに深めてしまっていた
ことにも気づかせてくれます。

つまり:

  • 不得意な場合:できないと分かる→対処法を考えられる
  • 困ってしまう場合:対処法を考えること自体ができない
    そして、その「できない」理由を理解することが、サポートの第一歩なのかもしれません。

このテストが示すのは、
ワーキングメモリーの働きだけでなく、
私たちの脳の機能の複雑さ、
そして支援の難しさでも
あるんです。

著者だから語れる両者の違い

この本の著者は、
脳卒中で高次脳機能障害になる前は、
私たちと同じように
「得意・不得意」の世界で生きていた人です。

その時は
「不得意なら対策すればいい」
「できないことも、
対策すればできる」
と思えていたそうです。

でも不自由な脳になって初めて
「対策すること自体が難しい」
という現実に直面した。

この経験があるからこそ、
両者の違いをこんなにも
わかりやすく教えてくれるんです。

この違いを知ることの大切さ

私たちの誰にでも
得意なことと苦手なことは
ありますよね。

  • 暗算は得意でも漢字が苦手
  • 記憶力はいいけど要約が苦手
  • 接客は得意でも事務作業は苦手

でもそれらは工夫次第で
何とかなることが多い。

さっきの逆読みテストのように、
できない方法は分かるし、
どうすればできるようになるかを
考えることもできる。

ところが
「困ってしまうレベル」になると、
その工夫すら思いつかない。

必要なサポートを求めることすらできない。

たとえサポートを求めたとしても
理解されない。

そこに大きな違いがあるんです。

なぜこの違いを知る必要があるの?

実は私たち誰もが
「困ってしまう」可能性を
持っています。

  • ストレスや疲労が重なったとき
  • 加齢による認知機能の変化
  • 突然の病気やケガ

だからこそ、
この違いを理解しておくことは、
将来の自分や大切な誰かのために、
とても重要なことなのかも
しれません。

貧困と不自由な脳の深い関係

『貧困と脳』というタイトルが示す通り、
この本の本質は
「貧困」の問題なんです。

著者は重要な気づきを
私たちに投げかけています。

それは貧困に陥ってしまう人々の中に、
不自由な脳を持つ当事者が
多いという現実です。

そして、
ここでも同じような構図が
見えてきます。

低所得であることと
貧困であることは、
実は「不得意」と
「困ってしまう」の
違いに似ているのかも
しれません。

低所得は確かに大変ですが、
何とか工夫して
乗り越えられる可能性が
あります。

でも貧困は
その工夫すら思いつけない、
助けを求めることすらできない
状態なのかもしれません。

このように、
本書は逆読みテストという一つの例を通じて、
実は私たちの社会が抱える大きな問題を
鋭く指摘しているんです。

おわりに

一見シンプルな逆読みテスト。

でも、このテストを通じて私たちは、
「不得意」と
「困ってしまう」の
本質的な違いに
気づくことができます。

そして、この本を読むことで、
なぜできないのか、
なぜ助けを求められないのか、
その深い理由を理解することができます。

それは単に
「理解してあげる」
というレベルの話ではありません。

私たちが今まで気づかないうちにしてきた
「できるはずなのに」という決めつけや、
「昨日はできたのに」という無理解が、
当事者をどれだけ追い詰めてきたのかを
考えるきっかけにもなります。

そしてこれは、
実は貧困の問題とも深く結びついているのです。
「頑張ればなんとかなるはず」と
いう私たちの思い込み
もしくは励ましが
本当に支援を必要としている人々の存在を
見えにくくしているのかも
しれません。

この気づきは、
不自由な脳を持つ方々への
理解を深めるだけでなく、
私たち自身の将来について、
そして社会の在り方についても、
考えるきっかけを
与えてくれるのでは
ないでしょうか。


※この記事は『貧困と脳』の一部を紹介したものです。
本書には、
不自由な脳を持つ方々の困難さとその理由、
そして貧困との関係性について、
多くの示唆に富む気づきが詰まっています。

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