最初にはっきりと書いておきますが、
この本『TAKE NOTES』は、
世界トップクラスの研究者や作家、
ビジネスパーソンが使っているメモ術
「ツェッテルカステン」の解説書ではありません!
これはドイツのデュースブルク・エッセン大学暫定教授の
ズンク・アーレンスが、ツェッテルカステンの方法論で書いた、
ニクラス・ルーマンのアウトプットの秘訣
についての研究書です。
ニクラス・ルーマンは20世紀を代表するドイツの社会学者で、
生涯で約9万枚のメモカードを作成し、
これらを基に70冊以上の著作と
400本以上の学術論文を残しました。
彼はツェッテルカステンの生みの親ではありますが、
直接この本を書いたわけではありません。
ですが最初はそれに気づかず、
すごく混乱してしまいました。
不思議だったんです。
この本で紹介されている方法は、
かなりしっかりとしたシステムなのに、
図で説明している部分が
ほんの数ページしかありません。
ほとんどが文章だけの説明で、
それも細かく分かれているので、
具体的にどうやって進めていけばいいのか、
イメージが湧きづらかったです。
例えば「永久保存版メモ」と呼ばれるものも、
どのくらいの詳しさで書けばいいのか、
どんなキーワードをつければ後で見つけやすいのか、
著者自身はどうやって使っているのか、
といった具体的な体験談が何もなかったのです。
それもそのはず
これはツェッテルカステンという方法論によって、
ルーマンがどれだけのアウトプットをしたのか、
このメモ術にどんな効果があるのかを研究し
まとめた書籍だったのです。
欲しかったのは最強のメモ術なのに、
実際に手に取ったのは
ニクラス・ルーマンの伝記だった…
ちょうどそんなような状況だったのです。

しかし読み進めているうちに、
もうひとつの重要な事に気づいて
目からウロコが落ちました。
この本自体が、
著者が説明しようとしている方法で
作られているんだということに。
- タイトルは「プロジェクト」
- チャプター(章)が「牽引」
- サブチャプター(節)が「永久保存版メモ」
- 最後の参考文献は文字通り「文献メモ」
として機能しているのです。

この発見から、
どんなふうにまとめればいいのか、
どのくらいの情報を入れればいいのか、
最終的に何を目指せばいいのかが、
少しずつですが見えてきました。
サブチャプターでひとつの話題をきちんとまとめて、
それを「永久保存版メモ」として保存し、
お互いの関連性を作っていく。
そして上位に「索引」として
チャプターを設定する。
そうしていくと、
この本のような知識の体系が
できあがっていくのです。
今この文章を書いているのですが、
これを例に考えてみると面白いです。
この文章を書く前に
付箋に書いていたメモが「走り書きのメモ」
今きちんと整理して書いているこの文章が
「永久保存版のメモ」になります。
この後は番号をつけて、
キーワードを加えて、
索引と結びつけていくわけです。
そして、来たるべき時が来たら
プロジェクトとしてまとめる。
一見すると複雑な方法に思えますが、
人間の脳のことを考えると、
なるほどと思えてきます。
私たちの脳は、ただ記憶を詰め込んでいるわけではなく、
細胞と細胞がシナプスでつながって、
そのネットワークに電流が走ることによって、
過去を追体験する。
これが私たち人間の記憶なのです。
そういう意味では、
メモ同士のつながりを大切にするこの方法は、
実は人間の頭の働き方に
すごくフィットしているのかもしれません。
この方法は、まるで「知識の庭」を
育てていくようなものです。
最初は小さな苗を植えるように、
ひとつひとつメモを書き留めていく。
そして日々の手入れのように、
メモ同士のつながりを見つけ、
育て、時には思いがけない方向に
枝葉を伸ばしていく。
デジタルツールのObsidianを使えば、
この庭造りはもっと自由で柔軟なものになるはずです。
どんな「知識の庭」に育っていくのか、
これからが楽しみです。